雪白の月
act 6
「…Dr…?いる…?」
石川がメディカルルームの扉を開けて中を覗くと… 橋爪がコーヒーを入れて待っていた―
「お待ちしてました。石川さん…」
「…Dr…話って?」
「まずは、座りませんか…?」
「…あぁ…」
石川は少し戸惑いつつも勧められるままに椅子に座る。
「岩瀬ですが、検査の結果、脳波にも体のほうにも異常は見られませんでした。 未だに目覚めませんが…。 ですが、直ぐに目を覚ますでしょう。」
そう言って橋爪は微笑んだ。
「そうか…良かった…。」
石川の心底嬉しそうな表情は何時間ぶりか…
「少し、落ち着きましたか…」
「あぁ…。事件の方も主犯は逮捕したそうだ…だけど…」
「まだ逃走中の仲間がいる…と」
「あぁ…。あまり時間を取れなくてスマナイ…」
「いえ…。」 と、橋爪がコーヒーカップを差し出す…。
石川はソレを受け取りながら 「…他には…?」 橋爪に話を促す。
話を振られた橋爪は困ったように苦く微笑んで―
「実は、コレと言って話はないんです」
「話は…ない…?」
「えぇ…。スミマセン…。隊長…いえ石川さんの様子が余りにも…」
そう言って橋爪は言葉を切った 石川は呆然とし、そして…
「じゃあ、仕事に」 と言って立ち上がった。 が、橋爪の一言で石川の動きを止めるのには十分だった…
「石川さん!今の貴方は見ていて辛いんですよ!!」
「…見ていて辛い…?」
「えぇ…。今の貴方は…見ているほうが辛くなります。いくら自分を責めても事実は変えれませんよ?」
「ちがっ…!!」
「いいえ。違いません。」
動揺する石川に橋爪は静かに言い聞かせる。
「貴方に『責任を感じるな』とは言えません。ですが石川さん、貴方がいくら自責の念に囚われても起こった事は変えれないんです。」
「…Dr…」
「岩瀬が気を失っているのも事実です。テロに巻き込まれたのも事実です。そして…」
「ヤメロ!!」
石川が橋爪の言葉を遮る。その叫びは悲痛で…。
橋爪も石川を痛々しそうに見やり…
「そして、石川さん、貴方が“隊長”であるのも事実です。そして、貴方が岩瀬の恋人だとゆう事も…。私が何を言いたいのか解りますか?」
石川は驚きを隠せないようで…。目を見開いて橋爪を見る。
「石川さん。貴方が岩瀬を“心配”するのは“当たり前”な事なんですよ?」
橋爪はそう言って優しく微笑んだ…
「だって、恋人なんですから。…いえ、恋人でなくても…貴方にとって岩瀬はそれ以上なのでは?」
「…Dr…」
「だから、いっぱい心配してあげてください。その方が岩瀬だって嬉しいですよ?」
「…そうかな…?本当にそう思うか?俺のせいで岩瀬は何時も何時も!!…もう嫌になったんじゃ…」
「…岩瀬を見くびらないで下さい。本当に彼がそんな事を思うとでも?」
「でも!本当のことだ。何時も俺を庇って岩瀬が怪我をする…。もう見たくないんだ!!これ以上岩瀬が怪我をするのを…。これは俺の我が侭か?Dr…」
「石川さん……」
橋爪は石川を何か痛い物でも見るように、見やる…
そして―
「これ以上私が何を言っても無理ですね…。そろそろ岩瀬が目を覚ますでしょう。後は本人と話すべきです。岩瀬が目覚めるのを待ってやって下さい。」
そう言って、ベットのカーテンを引く。
そこには未だ意識が戻らない岩瀬が眠っていた―
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